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東京地方裁判所 平成7年(ワ)18623号 判決 1999年5月11日

原告

株式会社エーエム・ピーエム・ジャパン

右代表者代表取締役

秋沢志篤

右訴訟代理人弁護士

吉沢寬

被告

江﨑宏之

江﨑昭裕

右両名訴訟代理人弁護士

斎藤勘造

主文

一  被告らは、原告に対し、各自、一八五五万四二三〇円及びこれに対する平成七年二月一三日から支払済みまで年18.25パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨。

第二  事案の概要

本件は、原告が、被告江﨑宏之(以下「被告宏之」という。)との間で締結したフランチャイズ契約の約定解除事由による解除に基づき、被告宏之及びその連帯保証人である被告江﨑昭裕(以下「被告昭裕」という。)に対し、契約期間中の未精算金一四六一万七三四七円、閉店手数料一〇万円及び損害賠償金一〇一五万一六八二円の合計二四八六万九〇二九円から、被告宏之に対する債務を控除した残金一八五五万四二三〇円及びこれに対する解除の日の翌日である平成七年二月一三日から支払済みまで年18.25パーセント(日歩五銭)の割合による約定遅延損害金の支払を求めた事案である。

第三  前提とすべき事実(争いのない事実のほか証拠により認定した事実。後者には、証拠番号を付す。)。

一  フランチャイズ契約の締結

1  原告は、コンビニエンス・ストアの経営等を目的とする株式会社である。

2  原告は、平成六年五月一日、被告宏之との間で、本件店舗に関し、次の事項を内容とするam/pmフランチャイズ契約(以下「本件契約」という。)を締結し、右契約に基づいて、被告宏之は、東京都板橋区所在のコンビニエンスストア「am/pm西台駅前店」(以下「本件店舗」という。)を二四時間営業の店舗として営業していた。

(一) am/pmアカウント(本件契約一三条。以下、カッコ内に引用するのは、本件契約書の条項である。)

(1) 本件契約に関連して生ずる原告と被告宏之間の債権債務のうち、(3)記載のもの(以下「計算項目」という。)については、(2)以下の定めるところにより精算する(以下この精算方法を「am/pmアカウント」という。)(一三条一項)。

(2) am/pmアカウントの計算期間は、毎月一日から末日までとし、各計算期間中に発生した計算項目は、右計算期間の末日において一括差引計算する(一三条一項二号、三号)。

(3) (1)の計算項目は、次のとおりである(本件契約書別紙明細書〔5〕)。

(ア) 原告の債権

① 代行支払に係る債権(一八条とあるが一七条の誤記)

② am/pmチャージ(三〇条とあるが二九条の誤記)

③ am/pmアカウント金利(一四条とあるが一三条の誤記)

④ 月次引出金、四半期精算金(三一条とあるが三〇条の誤記)

⑤ 違約金(二五条とあるが二六条の誤記、二七条、二八条、二九条とあるが二七条、二八条の誤記、四四条とあるが四三条の誤記)

⑥ 遅延損害金(四五条とあるが四四条の誤記)

⑦ 消費税

(イ)  被告宏之の債権

① 売上金等の送金に係る債権(二五条一項とあるが二四条一項の誤記)

② 二四時間営業助成金(一五条とあるが一四条の誤記)

③ 遅延損害金(四五条とあるが四四条の誤記)

④ 消費税

(4) (3)(ア)(イ)の各債権を一括差引計算後、原告の受取り分が生じたときは、被告宏之は、次の計算期間の末日までに原告に支払う(一三条一項二号、三号)

(二) 売上送金(二四条)

被告宏之は、毎日の売上金等を原告に送金する。

(三) am/pmチャージ(二九条、本件契約書別紙明細書〔10〕)

被告宏之は、原告が本件契約に基づいて被告宏之に与える承認、指導、サービス等の対価として、各月毎に売上総利益(売上高から売上原価を控除したもの)にチャージ率(売上総利益が二〇〇万円までの部分三五パーセント、二〇〇万円を超し三五〇万円までの部分四五パーセント、三五〇万円を超し五〇〇万円までの部分五五パーセント、五〇〇万円を超す部分六五パーセント)を乗じたam/pmチャージなる金員を支払う。

(四) 無催告解除特約(三六条一項)

原告は、被告宏之に、本件契約を継続しがたい重大な事由が発生した場合は、通知、催告をしないで、直ちに本件契約を解除することができる。

(五) 解除による損害賠償(三八条)

本件契約が解除されたときは、原告は、被告宏之に対し、自己の被ったすべての損害の賠償(契約残存期間の逸失利益を含む)を請求することができる。ただし、この損害が解除前六か月間のam/pmチャージ平均月額(但し、契約経過期間が六か月未満の場合は、その経過期間の平均月額、契約経過期間が一か月未満の場合は、原告が判断する額とする)の六か月分相当額を下回る場合には、同額をもって原告の損害とみなす。

(六) 閉店在庫の取扱い(四〇条一項)

(1) 本件契約の終了を停止条件として、本件契約に関連して生ずる被告宏之の原告に対する債務及び原状回復義務を担保するため、契約終了時に本件店舗内に存するすべての在庫品及びその他の被告宏之の所有物(レジスター内の金銭を含む。以下「閉店在庫」という。)の所有権及び本件店舗の使用権は、原告に移転する。

(2) 原告は、本件契約終了後直ちに閉店在庫の確認、調査のために、本件店舗内に立ち入り、店舗設備等、閉店在庫を占有し、実地棚卸をすることができる。

(七) 閉店手数料(四二条)

被告宏之は、本件契約が終了したときは、原告が行う閉店在庫の実地棚卸、店外搬出等の閉店作業の対価としての閉店手数料一〇万円、並びに原告が設置した設備、什器備品等の取外し費用、運搬費用及びそれらの残存簿価額相当額を、原告の請求あり次第直ちに原告に支払わなければならない。

(八) 契約違反と遅延損害金(四四条)

(1) 被告宏之は、本件契約に定める諸条項のいずれかに違反した場合は、違約金の定めがある場合といえども、原告の受けた損害についてはすべてその賠償の責めに任ずる(一項)。

(2) 被告宏之が、金員の支払をすべき場合にその支払を遅滞したときは、被告宏之は、年18.25パーセント(日歩五銭)の割合による遅延損害金を支払わなければならない(二項)。

二  連帯保証契約の締結

原告は、平成六年五月一日、被告昭裕との間で、本件契約に基づいて被告宏之が原告に対して負担する債務について、連帯して保証する旨の契約を締結した。

三  被告宏之の経理処理

本件店舗における被告宏之の経理処理は、次のとおりである。

1  平成六年八月以降の雑費、消耗品代の計上

平成六年 八月 雑費

二七万九二六二円

消耗品代

七七万三〇四九円

合計

一〇五万二三一一円(甲三の一)

九月 雑費

五一万六八八六円

消耗品代

二九万八七九九円

合計

八一万五六八五円(甲三の二)

一〇月 雑費

五七万九二二六円

消耗品代

二五万七七四三円

合計

八三万六九六九円(甲三の三)

一一月 雑費

一五万二二四八円

消耗品代

二四万七二四三円

合計

三九万九四九一円(甲三の四)

一二月 雑費

三五万八五四八円

消耗品代

三一万一六〇八円

合計

六七万〇〇六六円(甲三の五)

平成七年 一月 雑費

四六万八三六五円

消耗品代

三二万〇七二三円

合計

七八万九〇八八円(甲三の六)

二月 雑費

二九万九三四六円

消耗品代

七万六三二六円

合計

三七万五六七二円(甲二の三)

2  平成六年一一月の現金不足の発生

平成六年一一月 現金不足

二三〇万四七七三円(甲三の四)

3  平成六年一一月以降の立替金の計上

平成六年一一月

一八五万〇〇〇一円(甲一九の三五枚目)

一二月

四〇九万八九七〇円(甲一九の四〇枚目)

平成七年 一月

二三〇万円(甲一九の四六枚目)

4  平成七年一月の売上金からの被告宏之の自宅家賃の支払

平成七年一月九日、同月二七日、自宅家賃各八万九〇〇〇円を売上金から支出した(甲一五、二七、被告宏之の尋問の結果)。

四  解除の意思表示

原告は、平成七年二月一二日、被告宏之に対し、前記無催告解除特約に基づき本件契約を解除する旨の意思表示をした(甲六)。

第四  争点

一  約定解除事由(本件契約を継続しがたい重大な事由)の存否

二  未精算金、損害賠償金の有無及びその額

第五  争点に関する当事者の主張

一  約定解除事由(本件契約を継続しがたい重大な事由)の存否

1  原告の主張

被告宏之は、前記第三、三の経理処理を行ったが、これらは、次のとおり、いずれも本件契約で定められた適正な処理ではなく、原告、被告宏之間の信頼関係を破壊する行為であり、平成七年二月一二日当時、無催告解除特約にいう本件契約を継続しがたい重大な事由があったといえる。

(一) 平成六年八月以降の多額の雑費、消耗品の支払計上

平成六年八月以降平成七年二月までに計上された雑費、消耗品代の金額は、三七万円余り(平成七年二月)から一〇五万円(平成六年八月)に達しており、従前の雑費、消耗品代が、月額二〇万円程度であったのと対比すると、異常に多額であり、正当な経理処理とはいえない。

(二) 平成六年一一月の単月で二三〇万円余りの現金不足の発生

被告宏之は、平成六年一一月、原告の本部に対して毎日送付する報告書であるCレポートに、本来添付すべき領収書の添付がないか、又はあっても不適切な内容のものしかないのに、適宜に雑費や現金仕入として計上した。原告が、領収証不足等のため正当な支出として認めることができない雑費や現金仕入は、二三〇万四七七三円もあり、この結果、被告宏之は、同額の現金不足を発生させた。

(三) 平成六年一一月以降の多額の立替金計上

被告宏之は、立替金として、平成六年一一月に一八五万〇〇〇一円を、同年一二月に四〇九万八九七〇円を、平成七年一月に二三〇万円を計上したが(第三、三、3)、かかる立替金の計上は、本件店舗の規模からすると、異常に多額であり、正当な経理処理とはいえない。

(四) 平成七年一月の売上金の不正流用

売上金から控除することのできる経費は、現金仕入商品代、パート・アルバイト退職時精算分等に限定され、自宅家賃は、本来売上金から控除できないにもかかわらず、被告宏之は、平成七年一月九日及び同月二七日、各八万九〇〇〇円を売上金から流用し、自宅家賃の支払に充てた。

2  被告らの主張

原告が問題にする経理処理は、次のとおり、いずれも適正であるか又は原告の了解を得た処理であり、本件契約を継続しがたい重大な事由には当たらない。

(一) 平成六年八月以降の多額の雑費、消耗品の支払計上

(1) 被告宏之は、本件契約により原告の社員であるスーパーバイザーの山崎賢(以下「山崎」という。)から、本件店舗の経営等の指導を受けており、原告が問題とする点は、いずれも山崎の指導した事項又は同人が了承している事項であった。

(2) 本件店舗は、駅前にあるため、若者のたまり場となっており、ゴミ箱に放火されるなどのいたずらが絶えず、深夜における万引の被害も多かったことから、被告宏之が、警察に相談したところ、深夜は常時二名以上で営業するか、営業自体を自粛するしかないと指導された。被告宏之は、このような実情について山崎に相談したところ、深夜二名以上で営業すると、人件費が原告作成のマニュアルで定められた売上げの八パーセント以内に収めるという基準を超えてしまうが、深夜勤務態勢を二人にしても、アルバイトの給料を現金で支払い、その分は雑費として計上すれば、人件費は売上げの八パーセント以内との基準を超えないからそのようにすれば良いとの指導を受けた。被告宏之は、右山崎の指導に従って人件費を雑費として計上したため、雑費が増えた。

(3) 雑費には、被告宏之が使用したレンタカー代、携帯電話代を計上しているが、この点も、山崎が認めていた。

(二) 平成六年一一月の単月で二三〇万円余りの現金不足金の発生

「現金不足」とは、現実にあるべき現金が存在しないことをいうものであり、原告主張のように領収証の添付がないことにより認められない状況を現金不足というのはおかしい。

原告社員の池田誠マネージャーが、平成七年二月一〇日、本件店舗を訪ね、金庫の照合をした際、本来金庫内にあるべき現金が不足していたことはあった。これは、平成六年一二月に現金三〇万円の盗難があったことと、実際に打ち込むべき経費を打ち込んでいない分があったためであり、盗難の事実については、山崎に報告済みであった。

(三) 平成六年一一月以降の多額の立替金計上

被告宏之は、平成六年一一月、本件店舗の店長の川島勝仁(以下「川島」という。)に対し、返済期限を平成七年二月末日として一〇〇万円を貸し付け、その分を立替金として計上した。これは、事後的に山崎に報告し、了解を得た。

被告宏之は、平成六年一一月、カードラジオを代金約八〇万円で現金仕入し、その分を立替金として計上した。

(四) 平成七年一月の売上金の不正流用

自宅家賃を雑費として計上することは、山崎が了解していた。

(五) 経理処理上の問題の解決

被告宏之は、平成六年一二月二〇日頃、山崎から、経費の領収証が不足していることを指摘されたことがあった。領収証は、通常、原告の本部と本件店舗との間のメール便により送付していたが、スタッフが不慣れなため、処理方法が分からず紛失した分があったため、再交付できるものは再交付してもらい、山崎に相談し、人件費として処理した分もあった。処理の締切りに間に合わない分は、山崎に直接手渡し、平成七年一月五日にはすべて処理が終わっていた。このように、被告宏之の会計処理上の問題は解決済みであって、本件契約の解除事由となるようなものではない。

二  未精算金、損害賠償金の有無及び額

1  原告の主張

(一)(1) 未精算金

一四六一万七三四七円

平成七年二月におけるam/pmアカウント未精算金(前記第三、一、2、(一))

(2) 損害賠償金

一〇一五万一六八二円

平成六年八月から平成七年一月までの六か月間のam/pmチャージ平均月額は、一六九万一九四七円である。よって、その六か月分相当額は、一〇一五万一六八二円となる(前記第三、一、2、(五)参照)。

(3) 閉店手数料(前記第三、一、2、(七)参照)

(二) 原告は、前項の各債権から、被告宏之が原告に対して有する反対債権六三一万四七九九円(在庫商品代四〇三万七七六〇円、消耗品代一六七万七〇三九円、現金六〇万円)を控除した残額一八五五万四二三〇円の支払を請求する。

2  被告らの主張

(一) 原告の保護義務違反(原告の債務不履行)

フランチャイズ契約においては、通常、フランチャイジーは、独立の事業者として規定されている。しかし、一般的には、店舗経営の知識や経験に乏しく、資金力も十分ではない者がフランチャイジーとなる場合が多いため、フランチャイズ契約においては、資金力があり、専門的知識を有するフランチャイザーがフランチャイジーの経営を指導、援助することが予定され、それがフランチャイズ契約の重要な要素となっている。フランチャイザーは、フランチャイジーに対し、経営を指導、援助すべき義務と、経営判断を誤らせることのないよう的確な情報を提供すべき信義則上の保護義務を負っている。

しかし、原告は、本件店舗の経営が、経理上成り立たないことを知りながら、補助金を支給せず、原告が否認した経費等の額を被告宏之に告知しなかったため、被告宏之に経営判断を誤らせ、本件店舗の経営が破綻するにまかせたのであるから、原告は、被告に対し、右保護義務に違反したものというべきである。

よって、本件は、原告の被告に対する債務不履行というほかなく、被告に原告主張のような責任はない。

(二) 本件契約三八条但書の解釈

本件契約の三八条但書は、損害賠償の予定と推定される違約金についての定めではなく、損害の算定方法を定めたにすぎないから、原告は、損害を被ったことの立証を要する。しかし、本件店舗は、本件契約の解除後も経営が続けられていたため、原告は、何らの損害を被っていないので、損害を被ったことの立証がない。

仮に、同条が損害賠償額の予定の定めであったとしても、原告の被った実損害はなかったのであるから、本件約定は、明らかに暴利行為といわざるを得ず、三八条は、公序良俗に反し無効である。

仮に同条が有効であるとしても、原告が同条の効力を主張することは、右事情等からして著しく信義則に反し、社会正義に反し、これに基づく請求は権利濫用に当たる。

(三) 契約内容の問題点

本件契約書の内容は、杜撰極まりなく、かつ難解であるが、被告宏之は、その契約内容を十分理解することなく締結した。本件契約は、原告が一方的に作成した約款による付合契約であるから、各条項は、信義則上原告に不利益に解するべきであり、原告の本件契約三八条についての誤記の主張は認められない。

本件契約における売上送金に関する約定(前記第三、一、2、(二)、二四条)は、被告宏之に雑費などの経費及び立替金の支出計上を認めていないが、右約定は、フランチャイジーである被告宏之を独立の事業者と定めていることに反するので無効である。

原告は、被告宏之に対し、am/pmチャージの算定の基礎を粗利とすると説明したにもかかわらず、本件では、粗利ではなく売上総利益であると主張しており、右説明と齟齬するこの主張は認められない。

(四) 解除の無効

原告は、本件店舗が月間一四〇〇万円ないし一五〇〇万円の売上げがあったことから、原告の直営店にするか、又は縁故者により経営させるため、被告宏之に言いがかりをつけて本件契約を解除したものである。このような意図に基づく本件解除は違法かつ無効である。

(五) 相殺

被告宏之は、原告の本件解除により、開業準備費用等約五〇〇万円のほか、原告の保証した最低保証額年間一八〇〇万円を少なくとも本件契約の残期間である九年間失うこととなったので、中間利息を控除した一億二七九四万〇四〇〇円の得べかりし利益を喪失し、合計一億三二九四万〇四〇〇円の損害を被った。

被告宏之は、本件口頭弁論期日である平成八年五月二七日、原告主張の損害一八五五万四二三〇円と右損害賠償請求権とをその対等額において相殺する旨の意思表示をした。

第六  当裁判所の判断

一  争点一について

1  本件の争点一は、約定解除事由である「本件契約を継続しがたい重大な事由」の存否であるが、これは、具体的には、被告宏之の行った経理処理が正当なものであったか否かに集約される。そこで、以下では、各経理処理の適否について、個別に検討する。

(一) 平成六年八月以降の雑費、消耗品代の計上について

(1) 甲一七によれば、被告宏之は、雑費、消耗品代として、平成六年五月に一四万二〇七二円、同年六月に一八万四二四七円、同年七月に二二万五一〇四円を計上しており、右期間の平均額は一八万三八〇七円であることが認められる。

これに対して、第三、三、1で認定した同年八月以降の雑費、消耗品代としての計上額は、最も少ない平成六年一一月をとっても、その二倍強であり、その他の月は、3.6倍ないし5.7倍に達している。したがって、平成六年八月以降、右のように雑費、消耗品代の計上額が増加した理由について、被告らにより合理的な説明がなされない限り、事柄の性質上、被告宏之により適正でない経理処理がされたことが推認されるものといわなければならない。

(2) この点、被告らは、防犯上の必要から、深夜勤務を二人態勢にしたことにより増加した人件費のうち、売上高の八パーセントを超える部分を雑費として処理したためであり、このことは、山崎の了解を得ている旨主張し、これに沿う証拠として、乙一、証人亀山敦史(以下「亀山」という。)の証言及び被告宏之の尋問の結果がある。一方、原告は、そのような経理処理は、本件契約に反し、山崎もそのような指導をしていない旨主張し、これに沿う甲二〇及び証人山崎の証言がある。

(3) そこで、以下では、証人亀山の証言及び被告宏之の尋問の結果と証人山崎の証言のいずれが採用できるかについて、検討を加えることとする。なお、証人亀山は、当時大学生で、本件店舗にはアルバイトとして稼働していたにすぎない者であるから、そもそも証言している事項及び内容について、それ自体果たしてどの程度の信頼を置けるものであるかについては、疑問がないわけではない。しかし、証人亀山の証言をそのような理由で一律に排斥することなく、個々の場面において、その信用性を検討していくことにする。

(4) まず、人件費の経理処理について検討するに、次の点を認めることができる。

第一に、本件契約にかかる損益計算書においては、営業費の中の項目として、パートアルバイト給与、消耗品代、通信費(電話料)、雑費等の項目が挙げられている(甲二の三、三の一ないし六)ところ、人件費は、パートアルバイト給与の項目に計上し、雑費は各項目に入れることができないものを計上するのが当然であると解される。

第二に、原告が本件契約に基づくフランチャイジーの経営において、人件費を売上高の八パーセント以内に収めるべきである旨の方針により指導していたことについては争いがなく、本件契約書別紙明細書〔10〕によれば、二四時間営業の店舗については、前月の人件費が前月売上高の八パーセントを超えた分につき、原告から被告宏之に対し、毎月支払われる月次引出金三〇万円から差し引かれるものであることが認められる。このことは、八パーセントを超える分を雑費として計上することは、原告の利益を減少させることになる経理処理であることを意味している。

そして、乙三、証人山崎の証言及び弁論の全趣旨によれば、スーパーバイザーは、原告の社員であるから、本件契約に定められた条項を自己の判断において変更させる権限を有しているものとは認められず、山崎が、原告に不利益となるような経理処理を指導することは考えにくい。

(5) 実際に被告宏之が行った経理処理について、被告宏之及び証人亀山は、当初は、月額一二、三万円のアルバイト代のうち、一〇万円を超える部分につき、平成六年九月以降は、アルバイト代のほとんどにつき現金で受け取り、同人は、領収書を書き、それを、被告宏之が、本件契約に基づいて、毎日、原告本部に対して送付すべきとされている報告書であるいわゆる「Cレポート」(以下「Cレポート」という。)に添付して原告本部に送付していた旨供述する。

これに対して、証人山崎は、平成六年一一月、原告本部から、領収証不足を指摘されたため、被告宏之が領収証を後日提出し、例外的に人件費としての支出が認められたことが一度だけある旨証言しており、それ以外の時に領収証が添付されていたかどうかは争いがある。

しかし、甲二七及び証人長谷川洋(以下「長谷川」という。)の証言によれば、フランチャイジーである被告宏之は、Cレポートに、領収証を添付して送り、原告本部は、Cレポートと領収証とを比較対照して、領収証の添付のない支出や、添付されていても本件契約上認められていない支出については否認し、否認する理由については、付箋等を領収証に添付して、被告宏之に返還する方法が採られていたと認められる。そうすると、領収証が逐次添付されていたのであれば、当然本部によって否認されていたはずであり、この点から被告宏之及び証人亀山の各供述は疑わしく、いずれも採用することはできない。

(6) 被告宏之は、平成六年一一月までは、右増加した人件費のうち、売上高の八パーセントを超える分を雑費、消耗品代として処理し、同年一二月、平成七年一月にその処理がずれ込んでしまったため、各月の人件費の金額が増加した旨供述する。しかし、甲一七によれば、平成六年一〇月、一一月の人件費は、売上高の八パーセントの基準を下回っていることが認められるが、人件費を雑費に計上する処理が翌月以降にずれ込むことが予測されるのであれば、右両月の人件費は、基準である八パーセントに近い金額を計上することが自然である。

また、被告宏之の尋問の結果によれば、被告宏之本人も夜勤をしていたものであることが認められるところ、同人については、人件費が支出されないものであると解される。この点からも、人件費が増大することの説明は困難である。

これらの事実に照らすと、被告宏之の実際の経理処理が、被告らが主張するような人件費の振替え計上であったものと認めることはできない。

したがって、他に主張立証のない本件においては、これらの経理処理は、正当なものとは認めることはできない。

(7) 被告らは、被告宏之が使用したレンタカー、携帯電話の各代金を雑費として計上することについて、山崎が了承していた旨主張し、これに沿う乙一、被告宏之の尋問の結果があり、被告宏之は、レンタカーは、深夜勤務から帰宅する際、タクシーの代わりに利用していた旨供述する。

これに対し、証人長谷川は、フランチャイジーに対しては交通費の支給は原則として認められていない、携帯電話代についても、本件店舗の経営のための利用と私的利用とを区別できないため、経費として支出できないと定めている旨証言している。

この点については、事柄の性質上、証人長谷川の証言を採用すべきであると解されるから、かかる被告宏之の経理処理は、本件契約に反するものといわざるを得ない。ここでも、山崎がかかる経理処理を承諾していたか否かが問題となるが、先に述べたとおり、原告の不利益となるような指導をすることは考えにくく、被告宏之の供述は採用できない。

したがって、この点においても、被告宏之の経理処理は、正当なものとはいえない。

(8) 以上のとおり、雑費、消耗品代の計上に関する被告宏之の経理処理は、正当なものと認めることはできない。

(二) 平成六年一一月の現金不足の発生について

(1) 甲一五、二〇、証人久保園修の証言及び証人山崎の証言によれば、被告宏之は、平成六年一一月、Cレポートに添付すべき領収書を添付することなく、適宜に雑費、現金仕入として計上したこと、そのため、原告は、こうした処理を正当として認めなかったこと、その結果、被告宏之は、二三〇万円余りの現金不足を発生させることになったことを認めることができる。

(2) そうすると、原告が主張する現金不足とは、使途不明金と呼ばれる類の金員であると解されるから、結局、被告宏之による適正な経理処理がなされているか否かの問題に帰着することになる。

そこで、以下、適正な支出であり、使途不明金とはいえない旨の被告らの主張を検討する。

(3) 被告らは、平成七年二月一〇日、本件店舗内のレジを確認した際に判明した現金不足について、平成六年一二月の現金三〇万円の盗難があった旨主張する。

この点について、被告宏之は、盗まれた金額は二〇万円であり、山崎と他の店舗に商品を仕入れに行っていた時に発生した旨供述しているが、証人亀山は、二〇万円の盗難があったが、平成六年の年末の話ではなかった旨証言している。証人山崎は、平成六年一一月頃、被告宏之から、三〇万円の盗難の話を聞いたが、これは、山崎が、被告宏之に対し、立替金として計上されていた三〇万円を戻すよう指示したため用意していた三〇万円であると聞いた旨証言しており、いずれの供述も、盗難にあった金額、時期、盗難にあった際の状況の点に不一致がある。

被告宏之は、右盗難の事実以外にも、本件店舗が原告の直営店であった平成六年五月前半頃、三〇万円の盗難の事実があったが、どちらも、警察署に被害届を提出しておらず、その理由として、被害届を提出しても被害は回復されないし、大事にしてスタッフが取り調べられるのが嫌であったから等と供述している。さらに、同人は、他方で、本件店舗での万引きが多いことを警察に赴き相談していた旨供述しているのであるが、このような行動をとりつつ、右のような理由により少なからぬ額の金銭の盗難の被害届を出さないというのは不自然かつ不合理である。

したがって、被告主張の盗難の事実は疑わしく、これを認めることはできない。

(4) 被告らは、実際に打ち込んでいない経費があるとも主張する。しかし、具体的にどの経費について、どれだけの計上もれがあったかについて、個々的な主張が全くなされておらず、これを認めるに足りる証拠もない。

(5) 以上によれば、平成六年一一月において現金不足が発生しているのは、被告宏之の経理処理の不相当であることが原因であると推認せざるを得ない。

(三) 平成六年一一月以降の立替金の計上について

(1) 前記第三、三、3で認定したとおり、問題とされるべき平成六年一一月から平成七年一月までの三か月間の立替金の合計額は約八二〇万円であるのに対して、被告らは、本件店舗の店長である川島への貸付け一〇〇万円とカードラジオ代金八〇万円の計一八〇万円についてしか、その使途を主張していないから、残額の六四〇万円余りの使途は不明のままである。したがって、被告宏之の主張を前提にしたとしても、その立替金全体についての経理処理は、正当なものとは認められないのであるが、その使途として主張するものについても問題となるので、検討する。

(2) 被告らは、平成六年一一月、川島に対し、返済期限を平成七年二月末日として一〇〇万円を貸し付け、事後的に山崎に了承を受けた旨主張し、これに沿う証拠として乙一、証人亀山の証言及び被告宏之の尋問の結果がある。

しかし、本件契約二四条により、売上金の中から、従業員に対する貸付をすることは許容されていないことが認められる。したがって、被告宏之が右のような処理を山崎に報告していたとすれば、山崎は事後的にであってもこれを了承したとは考えにくい。

しかし、川島への貸付それ自体についても、次の点が指摘できる。

すなわち、第一に、被告宏之が、平成七年二月一〇日、原告の社員である久保園らから、立替金の使途を問い詰められた時点では、一〇〇万円は自宅に置いてあると説明しており、本件訴訟に至るまで川島に貸し付けてある旨の説明はしていなかったのである(このことは争いがない。)。その上、久保園らと被告宏之は、右同日、現金一〇〇万円の有無を確認するために、被告宏之の大宮市の自宅までわざわざ出掛けている(証人久保園の証言)のであるから、この間に川島に貸し付けていたことを言い出す機会がなかったとの被告宏之の弁解には合理的理由が全くない。

第二に、被告宏之は、貸付金の返済方法について、川島の給料から天引きしようと思っていた旨供述する反面、本件契約解除の時点で、貸付後二か月も経過しているのに、まだ天引処理をしていないことを自認しているが、これは甚だ首尾一貫しない言行であるというほかない。

これらの点からしても、被告宏之から川島に対する一〇〇万円の貸付けの事実の存在は、極めて疑わしいものといわなければならない。

(3) 被告らは、平成六年一一月、カードラジオを代金約八〇万円で現金仕入し、その分を立替え計上した旨主張する。この点につき、被告宏之及び証人亀山は、カードラジオの仕入先は、倒産したある企業であり、仕入れ値が一個四〇〇円、売値が一個六〇〇円のものを二〇〇〇個仕入れ、本件契約解除の平成七年二月一二日の一週間ほど前の時点で、みかん箱大の段ボール箱二個の量があり、本件店舗のバックルームにある倉庫内に保管していた旨供述する。

しかし、仕入先が倒産したある企業というだけで具体的には不明であるが、それはさておくとしても、甲二〇及び証人山崎の証言によれば、本件契約解除後の実地棚卸しの際、カードラジオは段ボール一箱しか存在しなかったのである。わずか一週間で、大量のカードラジオが紛失することは不可解である。

被告宏之は、廃棄物処理業者又はスタッフによる盗難の可能性を供述するが、現金不足と同様のパターンの弁解とみられ、この供述は信用できない。

(4) 以上のとおり、被告宏之の立替金に関する経理処理も、正当な処理ということはできない。

(四) 自宅家賃の支出について

被告宏之は、自宅の家賃を売上金から支出することは、山崎が了承していた旨供述する。しかし、本件契約二四条により、かかる経理処理は許容されていないことが認められ、本件契約書別紙明細書〔6〕の2により、住居費援助金として月額一〇万円の支給が別途認められていたのであるから(甲二七)、山崎が被告宏之主張のような経理処理を了承していたとは考えにくい。

その上、被告宏之自身も、税務署において、自宅家賃全額について経費として認められるとの指導はされなかった旨供述しているのである。

以上によれば、被告宏之のこの経理処理も正当なものとはいうことはできない。

(五) 経理処理上の問題の解決

被告らは、平成六年一二月二〇日頃、山崎から領収証不足の指摘を受け、再交付などの処理をして、平成7年一月五日にはすべて処理を終了させた旨主張し、これに沿う乙一、被告宏之の尋問の結果がある。

これに対して、Cレポートに添付すべき領収証が不足していたため、それらを後日追加して提出させたことがあることは、証人山崎も認めているが、それは平成七年一月のことではなく、平成六年一一月のことであった旨証言している。

甲五の一及び二によれば、本件契約解除の日の前日である平成七年二月一一日の時点で、平成六年八月以降の雑費、消耗品の支出が問題とされ、被告宏之は、原告に対し、翌日一二日に、平成六年八月から一〇月の雑費、消耗品代、同年一一月の現金不足、同年一二月、平成七年一月の雑費のそれぞれについて、使途を証明するよう要求されていたことが認められる。被告らは、甲五の一及び二は、同日深夜、本件店舗において、被告宏之が原告社員ら数名に囲まれ、脅迫された中で強制的に書かされたものである旨主張し、これに沿う乙一及び被告宏之の尋問の結果があるが、甲九によれば、解除の日の翌日である平成七年二月一三日の時点で、被告宏之が解除の効力を争わず、実地棚卸しに参加できなかったことを詫びていることが認められるので、右供述を採用することはできない。そうすると、被告らの主張はこれを認めることはできない。

2  小括

以上によれば、被告宏之は、原告の指摘する問題点である平成六年八月以降の多額の雑費、消耗品代の支払計上、同年一一月(単月)の二三〇万円余りの現金不足の発生、同年同月以降の多額の立替金計上等について、いずれもその経理処理について合理的な説明をすることができないのである。

このことは、被告宏之の経理処理がルーズであったことを意味するのであるが、それに加えて、売上金を家賃に流用することに象徴されるように、売上金を私的に費消するところがあったものと推認せざるを得ないのである。

フランチャイズ契約は、フランチャイズチェーンの本部機能を有する事業者(フランチャイザー)が、その加盟店となる他の事業者(フランチャイジー)に対し、一定の店舗ないし地域内で、自己の商標、サービスマーク、トレードネームその他の営業の象徴となる標識及び経営のノウハウを用いて事業を行う権利を付与することを内容とする継続的契約である。フランチャイジーとなる事業者は、独立の事業者ではあるものの、店舗経営の知識や経験に乏しく、資金力も十分でないことが多く、蓄積されたノウハウや専門的知識を有するフランチャイザーがこうしたフランチャイジーを指導、援助することが予定されており、フランチャイザーは、信頼関係に基づきフランチャイジーの経営の指導、援助に当たることが要請されるものである。

このように契約当事者間の信頼関係を基礎に置く継続的契約であるフランチャイズ契約においては、本件の被告宏之のような行為は、原告との間の信頼関係を破壊するものとして、本件契約を継続しがたい重大な事由であるといわざるを得ない。そうすると、原告主張の本件契約の解除は、約定解除事由を認めることができるから、有効なものであるといわなければならない。

二  争点二について

1  未精算金、損害賠償金等について

原告が主張する各債権は、次の各証拠により認められ、原告の債権から被告らの債権を差し引くと、一八五五万四二三〇円となる。

(一) 原告の債権

(1) 未精算金合計

一四六一万七三四七円

(あ) am/pmアカウント未精算金 一四三四万五五〇三円(甲一、一三条別紙明細書〔5〕、甲二の一)

a 原告の債権

① アカウント精算残高

一三八四万六八〇九円

② 代行支払合計

四三七万七八二五円

イ 仕入商品代

四三〇万七八一一円

ロ 店舗消耗品

七万〇〇一四円

③ am/pmチャージ

五六万六一五七円

④ その他 五〇〇〇円

b 被告宏之の債権

①売上高総額 五五六万四七五四円

② レジ支出金額

△ 九七万三七二二円

③ 現金不足△ 一四万三三七〇円

④ クーポン受取高 二六二六円

(い) アルバイト給与立替分 二七万一八四四円(甲一五)

(2) 解除による損害賠償金 一〇一五万一六八二円(甲一、三八条)

解約通知前六ケ月(平成六年八月から平成七年一月)の各月のam/pmチャージの平均額一六九万一九四七円の六ケ月分(甲三の一ないし六)

(3) 閉店手数料 一〇万円(甲一、四二条別紙明細書〔7〕)

(二) 被告宏之の債権(甲一五)

(1) 在庫商品代

四〇三万七七六〇円

(2) 消耗品代 一六七万七〇三九円

(3) 現金 六〇万円

2  原告の保護義務違反について

フランチャイズ契約は、前記一2に述べたとおりの性質のものであり、フランチャイザーは、フランチャイジーの経営の指導、援助に当たり、客観的かつ的確な情報を提供すべき信義則上の義務を負っているというべきである。

被告らは、原告は、右信義則上の義務違反があった旨主張するが、本件店舗の経営が経理上成り立たないと認めるに足りる証拠はない。かえって、甲一四の一ないし三によれば、本件契約締結直後の平成六年五月から七月にかけては営業利益が出ていることが認められる。したがって、被告らが主張する原告の債務不履行の前提となるべき事実を認めることはできないから、被告らの右主張は失当である。

3  本件契約三八条但書の解釈について

先に述べたとおり、フランチャイズ契約は、継続的契約であり、フランチャイザーとしては、一定の期間について安定した経済的関係を形成し、それを前提に企業活動を展開するものであるから、同契約がフランチャイジーの責めを負うべき約定解除事由に基づいて解除される場合には、各種の損害が発生することが確実に予測されるところ、損害の発生及びその具体的な損害額の証明は困難であることが少なくないから、一般的にこのような場合に備えた定めをしておくことにも合理性があるといえる。これが、損害賠償額の予定にほかならない。

そのような観点から、本件契約三八条をみると、同条は、その本文において、原則として、債権者は、契約の残存期間の逸失利益を含む自己の被った損害のすべてについて賠償を請求することができるとし、但書において、その損害が一定額(解除前六か月間のam/pmチャージ平均月額の六か月分相当額)を下回る場合には、その額をもって損害とみなすものとすると規定している。このような文言及び規定の仕方からすると、本件契約三八条は、①実損額を証明した場合には、予定賠償額を超える損害賠償を請求することができるが、②実損額を証明することをせず、予定賠償額を請求することもできる旨の定めであるものと解される。このうち、①の部分については、債務不履行に基づく損害賠償請求としては、いわば当然の事理を約定したものといえるところ、②の部分については、損害賠償額の予定を約定したものと解するのが相当である。そうであるとすると、原告は、損害を被ったことの証明をする必要はなく、同条に基づき、損害賠償を請求することができるものといわなければならない。

もっとも、予定賠償額が、社会的に相当と認められる範囲を超えて著しく高額であるような場合には、当該定め又は当該定めを適用した結果が公序良俗に反し無効となるものと解される。ところで、本件契約で定められた予定賠償額は、am/pmチャージ平均月額の六か月分相当額であるところ、本件契約が継続的契約であり、その期間が一〇年間とされていたこと、被告宏之が本件契約を解除されるまでの期間が一〇か月弱であったこと等に照らせば、六か月分相当額は、社会的に相当と認められる範囲を超えて著しく高額なものということはできない。

よって、三八条但書が無効である旨、及び、仮に有効であるとしても、同条の効力を主張することは信義則に反する旨の被告らの主張は理由がない。

4  契約内容の問題点について

(一) 被告らは、原告の本件契約三八条の誤記の主張を認めるべきでないと主張する。確かに、本件契約書は、いささか誤記が多いといえるが、本件契約書(甲一)を一読すれば、誤記であることがすぐに判明するものであるから、右主張は理由がない。

(二) 被告らは、売上送金に関する本件契約二四条がフランチャイジーである被告宏之が独立の事業者である旨を定めた同二条に反する旨主張する。

もとより、フランチャイズ契約において、フランチャイジーは、フランチャイザーに従属するものではなく、自己の責任において経営を行う独立した事業者ではあるが、このことと、本件契約において、どのような経費を原告本部に送金すべき売上金から控除できると約定するかは全く別の問題である。したがって、売上送金に関する約定(第三、一、2、(二)参照)が被告宏之が自由に雑費や立替金の支出計上をすることを認めるものでないとしても、被告宏之が独立の事業者であることに反するとはいえず、被告らの主張は理由がない。

(三) 被告らは、am/pmチャージの算定根拠が当初の説明と異なる旨主張する。

しかし、本件契約書別紙明細書〔10〕によれば、am/pmチャージの算定根拠は売上総利益とすることが明記されており、これに反して、粗利益を算定の基礎とする旨の説明をしたと認めるに足りる証拠はなく、被告らの主張には理由がない。

5  解除の無効、相殺

被告らは、原告が言いがかりを付けて本件契約を解除した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。むしろ、本件では、原告の約定解除事由による解除が認められるものである。したがって、本件解除により被告らが損害を被ったとする主張は、そもそも問題とはならないものであるところ、これを前提とする被告らの相殺の主張は理由がない。

三  結論

以上のとおり、原告の請求には理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官加藤新太郎 裁判官片山憲一 裁判官日暮直子)

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